Staff Note
ホウオウイクセル
調教を続けると体が小さくて疲れるので、低負荷でじっくり乗り続けました。集団調教の先頭でも全く物怖じしないし、度胸がありました。
ノーザンファーム空港
飯野義勝調教主任
写真提供: @hana.peko via Instagram
厩舎長時代にホウオウイクセルを担当されたとのことですが、最初の印象を教えてください。
1歳の10月に来たんですが、ちょっと小柄かな、と思いましたね。レイクの生産馬は数多く担当しましたが、私の厩舎にはなぜか難しい馬が多くて…。いろいろと学ばせてもらったというか、ホースマンとしての引き出しを増やしてもらいました。その中で言うとイクセルは癖がない方でしたが、小柄ではあったので、そのあたりがどれぐらい成長するのかな…と思っていました。
体重の維持には苦労しましたか?
来た時は430kgぐらいでしたが、成長を促しながら調教を進めて、1歳末に440kgぐらいまで増えたんです。ところが年が明けて2歳の2月ぐらいに、ペースアップが堪えたのか、ひどいスクミが出て、400kgを切るぐらいまで一気に落ちたんですよね。スクむ馬は調教を休まず、コンスタントに乗った方がいいんです。ただ、イクセルの場合は調教を続けると体が小さくて疲れちゃうので、低負荷でじっくり乗り続けることにしました。
写真提供: @suuna1021 via Instagram
具体的にどういうメニューを組んだのですか?
例えばトレセンだと、普段は軽めの調教だけど、週2回の追い切りでは強い負荷をかけるといった具合に、波があると思うんですよ、でも、イクセルの場合はそうすると体がもたなくなるので、毎回同じような弱い負荷をかけ続けて、ストレスの波が起きにくいようにしました。負荷の強さで言うと、他の馬の普段の調教が1、追い切りが5だとしたら、イクセルは毎日2ぐらいを続ける感じです。以前はどの馬にも同じようなメニューを組みがちでしたが、イクセルを通して、調教の負荷は1頭1頭に合わせなきゃいけないんだということを改めて感じましたし、より個体を観察するようになりましたね。
写真提供: @studiotakao via X(旧:Twitter)
苦労する中で、ポテンシャルを感じる部分もありましたか。
凄く度胸がありましたね。集団調教の先頭でも全く物怖じしないですし、雪が解けて馬道に川が流れたみたいになっても気にせず行くし、凄く頼もしかったです。気がいいのでスピードが出たし、走りも軽かったので、すぐに勝てるとも思っていました。ただ、重賞を勝つ姿はイメージできなかったですね。どうしても体が小さかったので、競馬を使いながら成長してくれれば…と思っていたんですけど、当初は厩舎側のトーンも上がらなくて…。3歳春に重賞を勝てるなんて、誰も思ってなかったと思います。
写真提供: @studiotakao via X(旧:Twitter)
他に印象的な出来事はありましたか?
実はこの馬、厩舎スタッフ全員が乗った馬なんですよ。大人しい馬は若手中心、逆に難しい馬はベテラン中心に乗るので、こういう馬はなかなかいないんです。気が強く、うまく乗らないとスピードが速くなるところがあったので、若手は頭を使いながら工夫して乗っていたし、ベテランも完全に気を抜くことなく、程よい緊張感で乗っていました。そういう意味でも思い出深いです。
写真提供: @studiotakao via X(旧:Twitter)
最後にレイク生産馬の印象について教えてください。
凄く手がかかっていて、スタッフが馬と向き合って触っていることが伝わってきます。だから、どの馬も人に対しての感情が悪くないんです。個人的にも印象に残っている馬は多いんですが、中でもオハギは衝撃的でした。
グローリーヴェイズの妹ですね。350kgそこそこの小さな馬でした。
厩舎に来た時、正直これはまずいと思いました。体もそうですけど、脚元も難しくて、ノーザンファームなら競走馬を目指さないレベルの馬だったと思います。でも、来たからには何とか競走馬にしたいなと思い、結構考えさせられました。だから、デビューできた時は本当に嬉しかったです。他にもタンギモウジア、ホウオウヒミコ、サトノルーリー…と、それぞれの馬に思い出がありますよ。これからもレイク生産馬に携わる機会は多いと思いますし、イクセルに続く重賞勝ち馬を育てたいですね。